DX?BPMが失敗する理由3

  このシリーズの最後のコラムとなります。BPMが失敗する理由の第3は「地道な努力無しに、良い結果を得ようとすること 」です。「BPMとはITのシステム開発だ」と思っている人は、先入観を捨てて理解してほしいと思います。
「最小の努力で最大の結果を得る。」ということを言っていた人がいました。自分は努力をせずに「誰か」に努力させて良い結果が生まれるようにする。と言いたいのかもしれませんが、それを世の中の全員が考えると「誰も何もしない。」という行動が選択されるでしょう。今の日本のあらゆる組織は「『何もしない』ことが最善の選択」になっているように感じます。それでも何かを実施しなくてはならない立場に立たされたとき、「お金」で解決することで責任を回避しようとしているように見えます。「お金」では解決できないことがあることを、日本の組織は忘れてしまった20~30年と言えるのではないかと思います。
 システム導入もその一つと言えます。「大きくて有名なシステム会社に任せておけば、大丈夫だ。」などと堂々と言っている人は、最近は聞かなくなりました。確かに過去の実績から、大きなシステム会社に委託すると「とりあえず動く」システムができる確率は高くなるでしょう。しかし、本当の狙いであった業務改革や業務改善が達成されているかは疑問です。出来上がったシステムが使われずに放置される、使ってみたものの短期間で捨てられてしまう。という話をこの20~30年は多く見聞きするからです。
 すなわち「最小の努力で最大の結果を得る。」というのは「誰かに何かをやらせる。」ことでは解決しないということを示唆していると言えるでしょう。 日本企業の長所の一つと言われた「長期の競争(評価)」という視点に立った場合、「最小の努力」とは何かを、このコラムではBPMを通してお伝えできればと思います。

目次

1.業務の調整役機能が失われた
2.BPMが組織で担う役割とは
3.’60年代~’80年代の日本の人材育成
4.まとめ

1. 業務の調整役機能が失われた

 1990年代中盤以降、会社の中の間接部門は大幅に削られていきました。すなわち短期の売上、利益を上げる人が優遇されるような人材評価に移っていったためです。間接部門は、短期間には売上も利益も生み出さないという評価から直接部門への転換が行われました。そのことによって現場と現場を繋ぐ、組織間の調整機能が失われました。問題はそれに代わる機能を補うこと無しに実施してしまったことです。結果的に現場が見えない上層部にその機能が移ったと言えます。日本企業の長所は、目の前の売上や利益に左右されない長期的な視点で調整機能を持つ間接部門の中間管理職などに実質的な権限を移譲されていることでした。今の日本の組織は上層部が、すばやく多くの判断をするための情報コストを増加させるものの、株主の短期評価を気にするために間違った判断を繰り返しているように見えます。そして中間管理職は現場から求められる判断を表面的に上層部に求め、その結果を部下に伝えるだけのメッセンジャーボーイになったと言えるでしょう。

 現場の声を直接聞くことができる中間管理職が実質的な権限を持っていたことが、日本企業の強みであったと言い換えることができます。間接部門や中間管理職の人員を増やせばよいということではありません。人を増やさずにBPMによる「見える化」が、その代替機能になり得るということです。

2. BPMが組織で担う役割とは

 一般的な業務においてITに求めらえる主な機能は、もはや単なる自動化や統制、ビッグデータからの分析ではないでしょう。どのような組織であっても、本当に欲しいのは「標準化された基準と対比する実績データ」だと言えます。
 紙やハンコを無くしましょう、といった単純な自動化をしたところで作業改善のレベルであり、業務改革は実現されないでしょう。基準のないデータから何かを探すというコストは馬鹿にならない割には、得られる情報は「想像」の域を脱することができない程度のものであることは、わかってきたと思います。
 AI(Artificial Intelligence)が機能するのは「標準化された基準と対比する実績データ」があるからだと思います。基準のないデータはAIは学習できないでしょう。将棋や囲碁のルール、自動車の交通ルールがあるから分析や判断ができるのだと思います。これはAIで無くとも人の判断も同様であると思います。そこから定量化できる売上、利益が主な人材評価になってしまったと言えるでしょう。
 「標準化された基準」を作るのは人です。しかも実際にその業務を行っている人が基準を作ることが重要です。それには大変な労力が必要です。BPMにおいてBPMNを書くことを実務担当者に目的やゴールを示した上で教育・研修をするということにはコストと時間がかかります。短期的な売上、利益、コストを考えるとBPMは導入、採用されません。ただ長期的な目で見ると現場に近い人材が組織全体の利益・コスト意識を生むことや自分の仕事を楽に確実に実施し効率化するという意識を生みます。業務をより良く変えていくことは、長期に及ぶ組織の便益を生み出します。それがかつての日本の組織の強みであったボトムアップ力だと思います。そのボトムアップ力を引き出すのが、かつての経営の仕事であったはずです。
 BPMNによって業務を可視化すること、BPMSを導入することで業務改善のPDCAサイクルが回ることは、組織力を根底から向上させることになります。

3. ’60年代~’80年代の日本の人材育成

 日本の強みは、海外からの輸入された考え方やモノを、うまく日本型にアレンジして利用するということは、明治維新以降を見ればわかることかと思います。
 QC(Quality Control)やIE(Industrial Engineering)も、輸入された管理方法でした。海外ではホワイトカラーが製造現場を分析・管理するための手法であったものを、日本では製造現場の道具になるようにして展開されました。過去、私の大先輩が製造現場の作業者であったとき、体が小さく、細かったため、どうやったら楽に仕事ができるようになるか、という切実な思いからIEの勉強をしたと言っていました。すなわち、皆が同じように「自分の仕事が楽になる」と考えると大変なコストダウンが生まれるということになります。
 過去、QCやIEといった手法の導入のための人材育成には多額の投資が必要であったはずです。 その投資ができるのは終身雇用という長期契約の制度があるからでしょう。1960年代から30年間積み上げてきた人材育成から得られた成果は、バブル期によって狂わされました。バブル期の「地道な努力をしなくても売れる」と、バブル崩壊から 「地道な努力では何ともならないという風潮から企業収益を短期で向上させるためにリストラという簡単な方法で解決しようとしたこと」によって、30年間積み上げたものを30年間に渡り捨て続けてしまったと言えます。

4.まとめ

 BPMSをシステム会社に「お金」を支払って導入してもらってもBPMではありません。その効果が投資に見合わないのは、システム会社の責任でもありません。自分たちの組織の業務を知らないシステム会社ができることというのは、誰でも気が付く簡単な作業改善レベルのことしかできないからです。それはRPAを導入しても使い道がないと言っているのと同じです。目的はRPAを使うことではないはずです。細かな作業改善をすることでもないでしょう(結果としてそうなることもありますが)。
 海外ではプロセスオーナーが管理監督する道具がBPMです。日本における BPMの目的は、過去の例から考えても、自分のかかわる業務の問題、課題を自ら解決する力を身に着けることにあります。それが組織力を根底から強くします。そのためには、過去、QCやIEを導入したような地道な活動こそが「最小の努力」であるはずです。我々のようなBPMにかかわるコンサルタントは、それを失敗せずに、最短で導入できるように支援をすることしかできません。
 これを読む人が所属している組織によって異なると思いますが、多くの組織では1980年代までは、これらの業務改善は普通に実施していたことです。それが、今では40歳代のマネージャクラスですら、知らないという時代になってしまいました。
 「今」すぐにお金をかければ業務改善が実現されて組織が改革される、などという手法は、世の中には存在しません。地道な努力が必要です。以前もコラムで書きましたが、業務改善や改革には、野球のような一発逆転サヨナラ満塁ホームランはありません。テニスのように1ポイント1ポイントを考えて積み重ねて、やっと勝利が手に入るようなものです。我慢できない組織はBPMは導入できませんし、短期的な「数字」を作ることはできても、長期的な視点ではビジネスは成功しないでしょう。人材が育成されませんし、意識の高い人材は流出してしまうからです。

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