「自動化」という言葉の罠、BPMは標準化から

  DX(デジタル・トランスフォーメーション)という言葉が流行していますが、事例を見ると特に目新しいことは無く、ITの利活用をして何等かの業務を効率化したと言っているだけのように感じます。逆にDX以外のシステム構築とは何を指すのかと考えてしまいます。業務を変革し効率化する以外のシステム構築とは、今までは何を目的にしていたのでしょう。
 業務変革、効率化という目的において飛びつくのが「自動化」という言葉です。目の前の困りごとが自動化できそうだという短絡的な思考からITツールの選定を行い、結果として、その業務が一時的に改善できたことに満足してしまっているようです。しかし担当者が変わり、内外の環境が変化すると、何でこんなツールを使って自動化したのか。変更するのにこんなにお金がかかる。ということから、そのツールを使うのをやめてしまう。という経験はありませんか。
 PDCA(Plan-Do-Check-Act)というサイクルが容易に回らないのであればBPMではありません。

目次

1.自動化とは
2.製造現場でも陥る自動化の罠
3.造り過ぎないこと
4.まとめ

1. 自動化とは

 製造業において、製造作業の自動化とは「人が行っている作業を設備などに置き換えること」と言えます。トヨタ自動車においても自動車の組み立て工程の自動化率は20%程度だと言われています。では、カイゼンという言葉を世界に広めたトヨタの組み立て工程は自動化できる作業である20%しか改善せず、そこで改善活動を止めているのでしょうか。作業を標準化し測定しムダを発見し、さらなる改善をするというPDCAサイクルは常に現場レベルで継続されており、その努力が内外の変化に素早く対応しうる強固な組織を作っていると思います。

2. 製造現場でも陥る自動化の罠

 製造業の会社に従事していたころ、私はIE(Industrial Engineering)担当でした。所属していたのは「生産技術課」でした。入社したときに「生産技術という言葉からハードウェアをイメージするかもしれませんが、人を対象にするソフトウェアの部分が大きい部署です。」と言われました。すなわち人の作業を分析して、ムダを発見し製造現場の人達とともに作業や業務を改善する仕事だと言われました。
 ところが実際に配属されてみると、一部には省力化設備の情報を集め、それを導入することで効率化をしようとしている人がいることに気が付きました。このタイプの人は、製造現場から「この作業は大変だから何とかしてほしい」、営業から「販売数量が倍になるので能力を向上させてくれ」という声から、省力化設備を導入する根拠とするために、そこそこの分析だけをして10年使えば投資対効果があるというような説明で設備を購入しようとします。「その商品や作業が10年続くという保証はないので、もっと製造担当者と一緒に作業を分析して検討しましょう。」と言っても強行突破され設備導入が決まってしまうことがありました。多くの結果は、一時的に効率化から生産能力がアップしますが、その商品は半年程度で生産中止になってしまったり、仕様が変わったりして設備は止まったままとなるということがありました。「だから設備導入は気をつけないと・・」というと「営業が売れるって言ったので、売らない営業が悪い。」というのが、その人の常套句でした。
 私には「製造の担当者と一緒に作業を標準化して分析し、お金をかけずにムダな作業を取り除くことを考えて行く。」という地道な仕事からその人は逃げているように思いました。製造の担当者も生産技術担当が勝手に省力化設備を入れて、やってくれるので楽だと感じている。しかし、時間とお金をかけて導入しても現場担当から「こんな設備、使えないよ。撤去してほしい。」と言われたり、楽にはなっているけど、単に「手待ち」が増えて作業者が手持ち無沙汰になったりしている様子を見ることが多かったと思います。

 この話は、ホワイトカラーの業務改善、BPMにも同様なことが言えます。BPMN図を描いて改善検討をするということをせずに、BPMSの自動化機能部分(BPMSからRPA連携など)だけに着目し導入するという話に似ています。

 BPMにおいて「自動化」の前に業務を「標準化」すること、標準化された業務をBPMSで測定し分析することが先でなくてはならない。ということです。

3.造り過ぎないこと

 まずは業務を「標準化」すること、すなわち業務フローをBPMNで記述し業務マニュアルをBPMSの画面に載せることです。このことでペーパーレス、マニュアルレス(紙マニュアルも紙チェックシートも無くなる。)になります。このことは仕事の場所を選ばないということになります。間違いが減り「手戻り」が減少します。慣れていない人でも間違いなく仕事ができるようになります。誰が、どの仕事を担当しているか、業務負荷がリアルタイムで見えるようになります。まず、これらができているでしょうか。
 ここまでを実現するのにも大変な労力が必要ですが、そのことだけでも業務を効率化することができます。ここに困難な自動化を実現しようとすると、もっと大変な労力がかかることになってしまいます。そして自動化が終わらないと使い始めないというムダが発生します。自動化をしなくても、様々な改善が実現できるのに自動化待ちになるということになります。これは従来のITシステムの導入から、自動化しないと改善できないと思い込んでいるからです。
 先日のセミナーで、どれくらい大変かわからない。どれくらい改善できるかわからない。とアンケートに書かれていた方がいました。そのときもご紹介したのですが、まず3か月で1プロセスを導入してみることです。そうすると大変さも、どのような改善ができるのかの実感も得ることができます。(モデルプロセス導入支援サービス参照)

4.まとめ

 現在(2021年11月) BPMコンソーシアムでは実際のBPM導入のご支援をしています。BPMNの記述研修とOJT支援、BPMSの設定研修とOJT支援後、実務担当者自身が中心となって業務改善を推進しています。BPMNとBPMSが、自分達の業務を自分達の手で改善するための手法、ツールになりつつあります。BPMは下図のように従来、システムが担当してこなかった人の業務を含めた改善です。ここを迅速に維持管理できるのは、実際に業務を行っている人です。そのために実務担当者が中心となってBPMは導入されなくてはなりません。

 特にBPM導入当初は実務担当者が中心に管理できるようにBPMSに実装することが重要になります。プロセス実装は、BPMN記述からBPMS実装まで3か月で終わらないのであれば「造り過ぎ」です。早く作って早く使い始める。そうして、自動化はBPMSに蓄積されたデータから、本当に必要なことであるかどうかを見極めてから行うべきです。

BPMとIT
・BPMとは
BPMSとは
DX?BPMが失敗する理由1
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