BPMとリスキリング

 前回のコラム(「プロセス管理」という言葉に騙されることなかれ。BPMにおけるプロセス管理とは。)の予告とは変更して、昨今マスコミなどでも、よく聞くようになった「リスキリング」とBPMについて述べてみたいと思います。
 経産省からは補助金を受けられるようで教育系の会社が、その補助金に群がっているような印象を持っています。少し、いじわるな表現をしていますが、これが単なる流行語に乗った経済刺激策(バラマキ)なのか?それともキチンとした考えを元に実施していることなのかという疑問がありました。「学び直せば何でもリスキリング」なのかというと、そうではないようで経産省やその他の情報から何をもってリスキリングと言い、具体的にどのような教育、研修をしているのかを調べてみたいとおもいました。そしてBPMコンソーシアムが行っている「BPM導入支援サービス」は、BPMNの記述ができる人の育成でもBPMSが実装できる人の育成でも無く、実は「実践ができる改善人材の育成支援」であるということを述べてみたいと思います。

1.経産省のリスキリングを通じたキャリアアップ支援事業(補助金)

「リスキリングを通じたキャリアアップ支援事業について」(令和5年6月経済産業政策局 産業人材課)によると
 ・賃上げの流れを継続・拡大していくため、賃上げが高いスキルの人材を惹きつけ、企業の生産性を向上させ、それが更なる賃上げを生むという「構造的な賃上げ」を実現する。物価高が進み、賃上げが喫緊の課題となっている今こそ、賃上げ、労働移動の円滑化、人への投資という3つの課題の一体的改革を進めていく。
 ・在職者のキャリアアップのための転職支援として、民間専門家に相談して、リスキリング・転職までを一気通貫で支援する制度を新設する。

ということですが、人材の流動化を促進させるために実施しているようです。この時点で本題から遠くなるかなと心配になってきました。
【賃上げ】スキルのある人材が転職するような市場がもっと活性化すると人材獲得競争から価格(すなわち賃金)が上がるということを狙っているということでしょう。転職市場が大きくなるほど、転職しないとしてもスキルが高くなった人材に辞めてもらいたくないので企業は賃金を上げる。ということでしょうか。
【労働移動の円滑化】いろいろなスキルを持っていると転職しやすい。ということでしょうか。
【人への投資】この補助金は個人に対してなので、企業は、社員を失いたくないので在職者に社内で学べる制度を充実していくだろうということも狙っているということでしょうか。

「人への投資」という言葉の解釈が少し強引な感じもしますが、前回のコラムにあるように実際に企業の中でそういった教育・研修を充実させる動きがあるように思います。(「プロセス管理」という言葉に騙されることなかれ。BPMにおけるプロセス管理とは。参照)

2.リスキリングの誤解1

 支援事業の内容を、そのまま受け取ると「リスキリング」というのは、特に「IT系のスキルを身に着けて転職しましょう。」というマスコミにありがちな解釈に思われてしまっている感じがあります。「リスキリングとは何か」ということで調べてみるとDXと同じで様々な解釈があり、最も私が苦手なテーマでコラムを書いてしまったと、この時点で後悔しつつあります。
 2020年のダボスで行われた世界経済フォーラムで「2030年までに全世界で10億人をリスキリングする」という宣言があったということは事実のようです。とりあえずリスキリングの定義を、インターネットで調べたレベルで出典も含めて以下に並べてみます。

・「新しい職業に就くために、あるいは、今の職業で必要とされるスキルの大幅な変化に適応するために、必要なスキルを獲得する/させること」
近年では、特にデジタル化と同時に生まれる新しい職業や、仕事の進め方が大幅に変わるであろう職業につくためのスキル習得を指すことが増えている。 デジタル時代の人材政策に関する検討会(経産省)2021年2月26日リクルートワークス研究所 石原直子氏
・「技術革新やビジネスモデルの変化に対応するために、新しい知識やスキルを学ぶこと」
日本能率協会マネジメントセンター 用語解説 HRM事業編集部 
・「新しい環境に適応するために必要なスキルを習得することを指します。企業が主体となって、従業員に対してスキルの再開発、再教育をすることを指す場合と、個人が主体となって取り組む活動を指す場合があります。」
 株式会社野村総合研究所 HP用語解説

上記の3つとも出典を記載されていないので、それぞれの独自解釈であろうと思います。
 ここで言えるのは、個人が転職するために新しいスキルを身に着けるという話ではない。ということはわかりました。企業内でリスキリングを行い配置転換をした、というような事例があるため企業内での活動を指すことの方が多いのかと思います。またデジタルということと直結している話ではない。ということもわかります。

 前回のコラムで書いた企業などは、経産省の検討会の資料と一致する話であると感じます。次に述べます。

3.リスキリングの誤解2

 前述のデジタル時代の人材政策に関する検討会(経産省)2021年2月26日リクルートワークス研究所 石原直子氏の資料によると
 「誤解1 リスキリングは、一部のデジタル人材の育成・獲得の問題だ」ということに対して
 「DXは、企業の価値創造の全プロセスを変化させ得る取り組み。デジタル戦略を考え、ロードマップを描く『一部の人材』ではなく、フロントラインの人々を含む全人材に対して必要と考えるべき。」
 と書かれています。ここが前回のコラムの「まとめ」で書いた企業の話と一致します。フロントライン(すなわち第一線で働く実務者)を含む全人材が対象という点です。
ここは我々が業務プロセスの改善のステップ(下図)でステップ1~3でBPMNレベル1での記述と、ステップ4でのBPMS実装検討、ステップ5でBPMS実装までを実務者が中心になって行う。ということに通じるものと思います。(BPMNレベル1セミナー抜粋)

4.まとめ 

 2025年度の最初のコラムとしては、私の不得意な分野のテーマを選択してしまったかなという印象です。我々のご支援はBPMというマネジメント手法を使いこなし、業務改革、改善ができる人材を増やすご支援となります。BPMNを正しく記述する、BPMSを正しく実装するということは、プログラミングができるようになる。というのと同じで手段でしかないです。どのようにして実際の業務プロセスを改善するかは研修などでは身に付かず実践で学ぶ以外はありません。以下の動画を観ていただければと思います。YouTubeが観ることができない場合はBPM導入支援サービスをクリックしてください。

 次回は、BPMNとBPMSに関して、今もセミナーで質問されることが多い事項を中心に過去のコラムと絡めてまとめてみたいと思います。
最も多い質問は「BPMNを描くだけでは可視化して改善するということができないのですか?」という話です。次に多いのは似たような話ですが「BPMSが無いとダメなのでしょうか?」という質問の裏の意味(BPMSが必要であることをわかっていて、この質問をされる)も含めて述べてみたいと思います。


 
 

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