BPMとAIの正しい関係:自動化のまやかしと「共通化」の罠を越えて
一般社団法人BPMコンソーシアム 代表理事 山原雅人
先日、BPMNレベル2セミナー(Pega Infinity版)の講師を担当いただいているPKUTECH社の芳賀氏と、セミナーの打ち合わせ後「AIの発展は、いわゆる『システム開発』の人材の仕事を奪うのではないか」というテーマで議論をする機会がありました。「御社のような開発会社として、何か対策は考えられていますか?」と尋ねたところ、芳賀氏は「自社には強力なAI部門があるのが強みだ」と言われました。「なるほど、ではAIは一体何ができて、何ができないのでしょうね」。議論はさらに深まり、私たちは一つの結論に達しました。「世間では『人の業務がAIに取って代わられる』と言うけれど、どんなに素晴らしいAIであっても、そこに定められた『業務プロセス』と『ビジネスルール』が存在し、その『実行データ』が大量に蓄積されていなければ、宝の持ち腐れになる。それを現場で作り上げ、維持管理するのがBPM(ビジネスプロセス・マネジメント)の役割である」ということです。
議論の途中で、「業務フローもルールもAIが自動生成できる」という意見も出ました。「AIを推進する企業の方は、よくそう言われますが、その元のデータはどこにあるのでしょうか。整理されていないバラバラなデータをいくらAIに学習させたところで、プロセスマイニングツールの「まやかし」と同じで、意味のある結果は出てこないでしょう。鶏が先か卵が先かというような不毛な議論のようです。
今回は、このAIとBPMの真の関係について、少し掘り下げていきたいと思います。
目次
1.「標準化」と「共通化」の致命的な混同
2.AIがBPMN図を描く?
3.BPMとAIの正しい主従関係
4.まとめ:「しくみ」が人を育てる――BPM継続の重要性

1.「標準化」と「共通化」の致命的な混同
以前、「BPMの「業務の標準化」を「共通化」と混同してませんか?」というコラムに書きましたが、多くの人が全社で同じプロセスで共通化することが標準化だと勘違いしています。そのことによってBPMが対象とする「業務の標準化」ではなく「作業の自動化」で共通化を試みてしまいます。過去に「海外ではERPパッケージに合わせて業務を行われている」と、まことしやかに説明されてきたことです。しかし海外での実態は例外作業がシステム外作業として増えているというのが真相です。だからこそBPMが必要となるのですが、BPMN図を描くことから逃れようとしてプロセスマイニングツールとタスクマイニングツールで分析するという「まやかし」がシステム会社の提案によって行われました。何等かの分析ができたのかもしれませんが、成果が出たという成功事例を私は聞いたことがありません。「丸投げすると楽だ」という思考停止が、結局は多大な費用と時間を浪費し何も残らないという結果を招いているのではないでしょうか。(BPMにはプロセスマイニングツールは不要参照)
結局、大量のシステム外作業が存在することは、AIが学習すべき「正しい企業データ」は蓄積されずAI活用はいつまで経っても実現しないでしょう。BPMにおける「標準化」とは、現場ごとのローカル化を明確に許容します。各現場の実務者が自らの手でBPMN図を描くことこそ、その現場に適したプロセスが定義されます。そのことでBPMSにはプロセス図に沿った大量の「実績データ(実行履歴)」が蓄積されるようになります。
2.AIがBPMN図を描く?
メールの送受信記録、電話の音声録音、会議や打ち合わせの録音データ、基幹システムの処理記録、PCの作業データなど、とにかくAIにぶち込めば、業務フローや業務ルールが整理されて出てくるのでしょうか。これをGeminiに聞いてみました。
「意味のあるBPMN図」を描くために必要なのは、メールやPCの操作ログといった「バラバラな生データ」の山ではありません。「人間の意図と判断基準が言語化されたデータ」です。以下の4つが必要です。
1.プロセスの「開始(トリガー)」と「終了(ゴール)」の定義
2.条件分岐における「判断基準(ビジネスルール)」
3.実行する「役割(アクター)」の定義
4.規定された「ハッピーパス」と「例外処理」のルール
「これを言語化するのであれば、人間がはじめからBPMN図を描いたほうが早いのではないですか。」と聞きました。
「山原様のご指摘の通りです。BPMNの記述ルールを理解している実務者であれば、AIに長々とテキストで指示を出すよりも、自分で記述ツールを使って直接描いた方が『圧倒的に早い』ですし正確です。」
これは原価管理システムから意味のあるデータをださせるために、やたらとデータを入力しないとダメだという話に似ています。管理のための管理という話です。AIに正しい業務フローを描かせるために、いろいろなデータを収集するための作業が増えるということです。
3.BPMとAIの正しい主従関係
実務者が記述したBPMN図に従ってBPMSが稼働すると、現場が使用する画面からプロセス図に描ききれない「未知の例外業務」に対処したリアルな履歴がデータとして蓄積されていきます。 AIはBPMSの実行データを分析し「この例外処理はパターン化できるため、BPMN図に新しい条件分岐を追加すべきです」「画面による業務指示の内容を変更した方、例外作業が迅速になります」といった具体的な「変更提案」が行うようになるでしょう。PDCAサイクルにおいて、AIによってA(分析)と改善がすばやく提案、実装されることになります。
実務者は、そのAIの提案が実行プロセスにおいて目的やガバナンスに合致しているかを評価し承認する。そしてAIがすばやくBPMSを変更する。プロセスの実行と意思決定の主権は常に人間(実務者)が握りつつ、AIを高度な「提案型の部下」として従える。これこそが、内外の市場環境の変化に、すばやく対応できるビジネスアジリティの劇的な向上に繋がるでしょう。
4.まとめ:「しくみ」が人を育てる――BPM継続の重要性
「日々の業務に追われる日本の現場に、BPMN図を正しく描き、AIの提案を吟味し続ける余裕などあるのか」という声もあるでしょう。 「業務が標準化されて時間が浮けば、自発的な改善の善循環が回るはず」というのは理想論ですが、それは一朝一夕には達成できません。
そのために「BPMS」(それに準ずるシステム)という逃げ道のない実行基盤(ツール)が必要となります。 「人間が自発的に良くなる」のを待つのではなく、実務者が描いたBPMN図と実務者が実装したBPMSで作られた「しくみ」を維持し続けた結果として「自ら業務改善を考え、実行できる人材」へと育つことになります。
これはトヨタ生産方式で、職長が標準作業票を書き、作業者を訓練して実行させ、かつPDCAサイクルを回して更なる改善を行うということと同じです。
BPMは「AIに作業を自動化させ楽になる」ためのツールではありません。「実務者が自らBPMN図を描き、BPMSに実装して業務を実行し続ける」という規律を現場に定着させるための強力な「しくみ」です。
IT企業からの甘い言葉や「共通化」の幻想から目を覚まし、自社のビジネスプロセスを自らの手で記述し、維持する覚悟を持つこと。この「執念」を持って、正しいBPMを実行し続けた企業だけがAIを真の武器に変え、時代を生き抜く勝者となるでしょう。

