「入力率向上」という罠――BPMから見たSFA・CRMが使われない本当の理由
一般社団法人BPMコンソーシアム 代表理事 山原雅人
「SFAやCRMを導入したが、現場に入力してもらえない」という話をよく聞きます。これは特定の業種や規模に関係なく発生しているようです。この問題に対して、ベンダーも導入企業も「どうすれば入力してもらえるか」を考えるようです。
私は、この「問い」そのものが間違いだと思います。
今回は、SFA・CRMが使われない本当の理由とBPM導入との違いを述べてみたいと思います。
目次
1.「入力させる」という発想が、すでに本末転倒である
2.「入力させる工夫」でお金を稼ぐ構造
3.BPMから見ると、問いの立て方が逆である
4.SFAやCRMを否定したいわけではない
5.まとめ
1.「入力させる」という発想が、すでに本末転倒である
BPMSでもデータの入力は発生します。しかし現場は「入力させられている」とは感じません。
「入力しなければ、自分の業務が正しく前に進まない」からです。
見積書も出せない。承認も得られない。開発部門にも情報が回らない。製造部門にも連絡できない。発注もできない。
入力は報告のためではなく、業務遂行のために行われています。
SFAやCRMへの入力はマネジメント層が管理、監督することが目的であって営業担当者には恩恵がないです。現場からすると業務が前に進むわけでもないのに「なぜ自分が知っていることを入力しなければならないのか」と考えるでしょう。
これは現場の怠慢ではありません。システムの設計思想の問題です。
2.「入力させる工夫」でお金を稼ぐ構造
入力率が低いという問題に対して、ベンダーはどう動くか。業務プロセスの設計を見直すよう提案するのではなく、「もっと簡単に入力できるようにする機能」「作業の自動化ができる機能」を追加提案します。この仕掛けを追加するたびに、多大な費用が発生します。ベンダーはSFAやCRMが現場で使われていないことを知っています。知っているからこそ「使われるようにするための開発提案」が次々と生まれます。使われないシステムは追加開発の種になる。これがSFA、CRMのビジネスモデルです。
3.BPMから見ると、問いの立て方が逆である
BPMの観点では、システムは業務を前に進めるために存在します。その結果としてデータが蓄積される。データを集めるためにシステムがあるのではありません。
以前のコラム「『プロセス管理』という言葉に騙されることなかれ」で触れたように、SFAやCRMが管理しているのは主に担当者個人の作業プロセスです。担当者間・組織間の業務プロセスを管理する設計になっていないため、受注後の契約・納品・請求へとプロセスが繋がりません。
受注した後、営業担当者は別のシステムを開かなければならない。同じ情報をもう一度入力しなければならない。これでは現場が使用しないのは当然でしょう。
また、BPMSでは次に何をすべきかが画面上に示されます(動く業務マニュアル)。業務のノウハウがプロセスの中に組み込まれているため、担当者が変わっても業務が属人化しません。最初に設定したノウハウが完成ではなく、使っていく中で営業担当が記録する内容が、PDCAサイクルが回り、近い将来AIに対してのインプットとなり、更なるノウハウが画面上に表示されるようになる。
という善循環が回りだします。BPMとAIの正しい関係:自動化のまやかしと「共通化」の罠を越えて参照
SFAやCRMはすべての営業プロセスを1プロセスで実行するしかありません。ゆえに仕事のタイプ別のノウハウが画面上に現れるようにすることができずに「入力させるための便利機能」「作業の自動化機能」に頼るしかなくなります。

4.SFAやCRMを否定したいわけではない
顧客情報の蓄積や活動履歴の記録の検索、閲覧に関してSFAやCRMが有効な場面はあります。
BPMSはプロセスごとのデータは管理できますが、あるタスクで入力された内容だけを蓄積し、それを、見たいときに見たい形で自由に検索、閲覧をするということが標準ではできません。よって連携層でBPMSからSFAやCRMに自動入力させ、SFAやCRMが持つ検索、閲覧機能を利用することでBPMSのローコード開発機能で作らなくても良いというメリットはあるでしょう。(これが投資対効果が見合うかは、わからないです。BPMSの開発機能で作った方が良いということもあるでしょう。)
「SFAやCRMを導入すれば営業が強くなる」という発想には注意が必要です。自社の業務プロセスを設計しないままツールだけを導入しても、何も改善はできません。改善しないから「もっと便利な機能で解決しよう」という方向に進み、自動化コストだけが増えていきます。
5.まとめ
SFAやCRMが使われない理由は、入力が面倒だからではありません。業務プロセスの中に位置づけられていないからです。
「どう入力させるか」ではなく「そのシステム(BPMS)を使わなければ業務が進まない、間違いなく業務が進められる状態を作る」。この問いに変えることがBPMの出発点であり、ツール選定よりも先に考えるべきことです。
DXが叫ばれ、さまざまなツールの導入が続く今だからこそ「入力させる工夫」「作業の自動化」という罠に気づいていただければと思います。

