魔法の杖を探すのは、もうやめましょう ツール導入だけで業務が変わりましたか
一般社団法人BPMコンソーシアム 代表理事 山原雅人
「これを導入すれば一発でDXが成功する」。そんな「魔法の杖」のようなITツールを探すのは、もうやめましょう。多額の投資を行い、ITシステムやAI、RPAなどを導入した企業や組織は少なくありません。しかし、その「結果」として現場で達成されたのは単に紙が画面に置き換わっただけの表面的な「ペーパーレス化」や作業の自動化(今だけ、ちょっと便利になった)止まりになっているのが、日本のデジタル化の現実ではないでしょうか。
目次
1.インターフェースだけが変わる現場の実態
2.なぜ「システム化」自体が目的化してしまうのか
3.BPMから見た「本当のDX」とツールの位置づけ
4.まとめ:「何を導入するか」から「どう変えるか」へ

1.インターフェースだけが変わる現場の実態
コラム『一般的な業務フローとBPMN図との違い』(クリックで参照)で私自身の体験を紹介しました。融資手続きの際、行員から「前回この資料をお渡しするのを忘れていました。記入・捺印してもう一度ご来店いただけますか」と言われたのです。
一方で、その銀行では書類の「預かり書」にタブレットでサインさせ、ポータブルプリンターで手渡す仕組みを導入していました。紙を減らすことには熱心でも、肝心の「人の業務プロセス」は標準化されておらず手戻りが生じる。ITを導入した「結果」が単なる部分的な作業の自動化やペーパーレス化にとどまり、業務自体は何一つ良くなっていない象徴的な例です。
2.なぜ「システム化」自体が目的化してしまうのか
このような本質から外れた導入が繰り返されるのでしょうか。(ビジネスアジリティ・マニフェストのあとがきを参照)それは、経営層やIT部門、さらにはベンダー側にとっても「システムを稼働させた」「ペーパーレス化した」という事実の方が、目標として分かりやすく評価しやすいからでしょう。
「いくらIT投資をしたか」「システムが無事動いたか」はプロジェクトの経過に過ぎず、業務の成果ではありません。悪い業務プロセスをそのままIT化すれば「悪いプロセスが高速で実行されるだけ」であり、現場には新たな操作負担とペーパーレスという形だけの結果だけが残されてしまうことになります。
ここで企業経営に関わる方々に考えていただきたいことがあります。過去のコラム『日本型経営とBPM』(クリックで参照)でも触れましたが、ITを使って「社員の作業を監視し、ミスや遅れを指摘するための仕組み」を作ったところで、社員は一生懸命には働きません。
経営者が目指すべきは監視の目を光らせることではなく、中間管理職が中心となって現場が迷わずスムーズに動けるプロセスを整えるための環境を作ることです。管理のためのIT投資などでは、現場のエンゲージメントや生産性は決して向上しないです。そこにはゴマカシや言い訳というコストが増えるだけです。経営者から指摘されたことに対し「言い訳資料を作る」「改善できた、今後改善される」といった報告資料が提出される。ここに多くのコストを費やされることなるが、実際は会社の経営そのものは何も改善されていない、という現象が起こります。これは想像では無く、私がサラリーマン時代に「権限移譲型(定性的、定量的目標を与え、方法に関しては任せる)の経営者」から「重箱の隅をつつく指摘型の経営者」に変わったときに実際に経験したことです。社員たちは、怒られないようにデータの捏造やウソの報告書を作ることに一生懸命でした。私はそういった「裸の王様」を沢山、観てきました。「改善できているのに、なぜ会社の利益が向上しないのだろう」と経営者は言っていました。
そして安易に、ちょっと便利になるITツール導入を繰り返しITツールだらけになる。そのITツールが「魔法の杖じゃなかった」「騙された」と嘆く。この30年以上、このようなことが繰り返されてきたのではないかと思います。
3.BPMから見た「本当のDX」とツールの位置づけ
では、なぜ「ペーパーレス化くらい」で止まってしまうのでしょうか。過去のコラム『「ペーパーレス化」と「BPM」は、何が違うのか?』(クリックで参照)でも指摘した通り、紙の申請書をWebフォームに変えても、プロセスが変わっていなければ業務の本質は変わりません。
CRMやERP、AIなどは業務を効率化する「部品」に過ぎません。BPMS(ビジネスプロセス・マネジメント・システム)をこれらと同列の「単なる便利ツール」と混同してはならない理由もここにあります。BPMSは個別の自動化ツールではなく、人を含む「業務プロセス全体を可視化・管理・改善する基盤」そのものだからです。
見るべき成果は単純なIT投資によるコストダウン額ではなく、「調べる、読む、聞き回るなどが排除され処理時間が減ったか」「作業が標準化されて手戻りが、どれだけ減ったことでスムーズな流れになったか」といった業務そのものの変化です。
4.まとめ:「何を導入するか」から「どう変えるか」へ
ITという魔法の杖を探し「何をデジタル化(作業の自動化、ペーパーレス化)するか」を考えるのは終わりにしましょう。
まず「現在の業務はどうなっているのか」「本来どうあるべきか」をプロセス全体で直視・整理する。その上で、あるべきプロセスを実現するために必要なBPMS(それに準ずるITツール)を選び、組み込む。
真に取り組むべきなのは新しいITツールを買い足すことではなく、業務プロセスそのものを正しく見直し、変革していくBPMの根気強い継続と実践となります。

