デジタル化はITシステム導入ではない

 昨年、デジタル庁ができましたが、あまり良い噂が聞こえて来ないです。「税金の無駄遣いをするのでは」「経済対策としてのバラマキの一環では」と思っている人は少なくないでしょう。住民基本台帳ネットワークシステムからマイナンバーカードまで一体、いくらの税金を垂れ流したのでしょう。マイナンバーカードの利便性は1回/年、確定申告をする人と税務署にしか明確なメリットはないと言ってもいいでしょう。住民票がコンビニで出力できて、うれしい人がどれほどいるのでしょう。
「デジタル庁は、デジタル社会形成の司令塔として、未来志向のDX(デジタル・トランスフォーメーション)を大胆に推進し、デジタル時代の官民のインフラを今後5年で一気呵成に作り上げることを目指します。 」と書いてあるものの抽象的な表現の羅列で「人にやさしいデジタル化」など政治家が好きな「言葉あそび」をしているようにも感じます。

目次
1.デジタル化とは何か
2.デジタル化の前に標準化
3.「標準化=業務フローを描く」ではない
4.まとめ

1.デジタル化とは何か

 単にITシステムを導入したからといってデジタル化ではないでしょう。ITシステムは「何かが自動化される」「ペーパーレスになる」「ハンコを押さなくても良くなる」というように何かが便利になる。というような「ありき」視点で作られたシステムは、ほぼ失敗していると言えるでしょう。バラバラの単機能としては動いているとは思います。業務プロセスとしては改善されているとは言えないでしょう。多くの企業・組織が「何かが便利になる」を探してシステムを作ろうとしているように思います。これをデジタル化だと思っていると無駄な投資とシステムが乱立することになるでしょう。公共事業においてはハコモノと同じ臭いがします。

2.デジタル化の前に標準化

 「『システムで業務を標準化する』という目標のお客さまに、ひどい目にあった。」と、あるITシステム企業の社長が言っていました。それは12~3年前の話なのでERPなどの業務パッケージシステムで、標準化を実現しようとするとパッケージ標準機能を無茶苦茶に改造して作っていくことになるからでしょう。例えば同じ「受注」という機能であっても、標準化のためには各部門ごとに違う画面を作っていくことになります。100部門あれば受注登録画面を100種類作ることになります。部門特有の業務というのは「受注」だけではないため、その現状分析と設計書作成は気の遠くなる作業になり莫大な費用と時間が費やされるでしょう。よって一般的な業務システムでは標準化できずに、どの部門でも共通的に使える最低の機能だけを有しているということになります。パッケージシステムを導入すると不便になったという声があるのはそのためでしょう。
 BPM(BPMとはの動画を先に見てください。青字をクリック)では、BPMSを使って100部門の実務者が使いやすい画面を実務者自身が考えて100画面を作ることになります(作らない場合でも設計まではします)。IT担当者の負荷を大きく増やすことなく標準化が実現できます。これを実施する過程で現状分析(ステップ1)を行いますので、さまざまな業務課題が明確になります。その業務課題は標準化することで解決できることが多いと思います。中には自動化すべきことも出てくるでしょう。(ステップ2~3)それらの自動化することで解決する課題を、どのように実現するかはIT担当者と実務者が一緒に考えればよいのです。(ステップ4)。
 これとは異なり課題を先に見つけ、それを解決するために「自動化する」「ペーパーレス化する」などという「ありき」視点で、何らかのシステムを作っていくことは多くのムダを発生させます。「マイナンバーカードを『使わせる』ためにどうするか。」を考えているのではないかと心配になります。マイナンバーカードは手段であり目的ではないからです。目的はユーザーも提供者も世の中も利便性が高まり、高効率化されることのはずです。そこにマイナンバーカードは必ずしも必要ではないことも多くあるでしょう。RPAブームのときに、RPAが使える業務を探すために業務フローを描くというのと同じです。目的と手段が入れ替わっています。
 標準化されていない業務を改善するというのは闇雲に突き進むこと(これを一気呵成というのか)と同じで、暗闇の中で不幸な事件や事故が多発することになるでしょう。DXという言葉で、そういった事態が増えるのではないかと危惧しています。

3. 「標準化=業務フローを描く」ではない

 「標準化が先だ」ということから、とにかくBPMNで業務フローを描こうというのは間違いです。実務者にゴール感を見せずにBPMN図の描き方だけを教えて「とにかく描け」というのは「何のために描くのか」という疑問を生みます。「自分の業務は自分が知っているので描く必要がない。」「こんなものを描くのに時間を使うなら、 便利になるから、これを自動化してくれよ。」という話になり逆戻りです。
 BPMの「ゴール感」というのは、BPMN図がBPMSに実装されて、どのように業務が標準化、自動化されていくのかを自分達で実体験をした結果を示すことです。 (個別のBPMSの技術機能検証「PoC」ではありません。) そのことをやらずにBPMN図を、ただ大量に描いている組織、企業が多くあるようです。
 BPMN図を改善議論のためのコミュニケーションツールとして使うということは誰でも読みやすいBPMNのメリットではあります。残念ながら ゴール感を見据えずに描いたBPMN図は 恐らくBPMS実装には使えないと思います。 「絵に描いた餅」「一時的な改善ごっこ」(一時的に改善されるが、内外環境が変わると元に戻る)で終わるでしょう。 「改善は永遠、創意は無限」と言われるように業務改善・改革には終わりがありません。PDCAサイクルが回ることが非常に重要です。BPMコンソーシアムでは、「ゴール感」を自組織の実例で作る モデルプロセス導入支援(青字をクリック)を行っています。

4.まとめ

 業務を標準化する前に、何かが便利になるからという目的だけでシステムを構築すると無駄な投資になる。デジタル化とは闇雲にITシステムを構築することではない、ということです。
 標準化や業務改善は誰がやるのか。それは実務を知っていて実施している人(実務者)を管理している人(すなわち中間管理職者)が中心となって、実務者と実施することです。経営層(政治家)は、それが実現できるようにするために「指示」をするのではなく、理解者となって「支援」をするべきです。

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