BPMSとは

 BPMS(ビジネスプロセス・マネジメント・システムまたはスイート)は、国際標準であるBPMNで描かれた業務フローを実装しBPMを実現するために必要なITツールです。BPMSは業務システム開発ツールであるという誤解をされていることがあります。誤解される原因に関しては「BPMとは」を参照してください。このページではBPMを実現するためにBPMSが担う役割と有している機能に関して主に説明をしていきます。

目次

1.BPMにおけるBPMSの重要性
2.BPMSのPDCA機能について
3.BPMSに関してよくある質問
4.まとめ

1. BPMにおけるBPMSの重要性

 BPMNという国際標準の業務フローに興味を持ったセミナー受講者に、BPMSを紹介すると「こんな話はどうでもいい。」と何回かアンケートに書かれたことがあります。「業務フロー(BPMN)の勉強をしに来ているのに・・・このシステムを売りたいのか。」と書かれたこともありました。BPMを理解している人が、本当に少ないことを残念に思います。
 業務フロー、業務マニュアルを書いて業務を標準化させる取り組みをした経験のある人は、業務フロー・マニュアルの維持の困難さを知っています。1970、80年代から製造現場の標準化と同様に行われていた取り組みであり、そこから40~50年経った今も、維持の問題が発生しており解決されていません。
 この批判された受講者は業務フローが維持できない問題を体験したことがない。または国際標準の業務フローだと維持できると勘違いされている。のどちらかだと思います。正しいBPMN図を描くと「誰が読んでも同じ意味として伝わること」と「維持されること」とは別の話です。契約社会でない日本では業務フローだけを維持することはとても難しいことです。その理由は業務フローが常に身近にはなく、使われることがないからです。一度描いた業務フローは課題を解決した後は、机の中やデータとして保管されているだけで日常として使用することはないでしょう。そして組織内外の環境変化が発生したときに、業務フローは修正されずに業務システムの変更だけが行われます。これが繰り返されていくと「業務知識はプログラムの中にあり、見えなくなる。」という問題が発生します。「では業務フローを描こう」ということになるのですが堂々巡りです。維持する「しくみ」が無い限り、一度きりの業務システム変更にしか業務フローは使われないでしょう。
 この話には、業務フローを維持するためのヒントがあります。いつも使っている「業務システムは、内外の環境の変化に合わせて修正しないと業務ができないから修正をする。」ということです。BPMは、今までのシステムでは管理対象ではなかった「人が行っている業務プロセス」含めてBPMNで描き、BPMSに実装して管理することです。内外の環境変化の影響を受けるとBPMSを変更させるために、業務フロー(BPMN図)を変更する必要が発生するからです。そのときの変更は通常の業務システムの変更の比ではありません。具体的に実務を知らないIT担当者が一つ一つの業務プロセスの変更をどのようにするかを聞き取って考えていたら、いつまで経っても環境変化に俊敏に対応することはできないでしょう。(コラム「BPMとIT」参照)
 BPMSは実務担当者が描いたBPMN図を実装し、そして業務フロー通りに業務を行います。常に身近に業務フローが存在し業務がリアルタイムで見えるようになります。BPMSがあるからこそBPMNが維持できるのであり、BPMNを実務担当者が維持管理できているからこそのBPMSなのです。

2. BPMSのPDCA機能について

 BPMSは、BPMを実現するための4つの機能を有しています。(ここではライセンス無償のオープンソースBPMS「Bonita」を使って紹介をします。)

PLAN:BPMN図を描き、画面を設定します。その他、組織、人員などの登録をします。

・実務担当者が描いたBPMN図をBPMSに描き写します。
・BPMN図の中のユーザータスクは一つの画面になりますので画面設定をします。
・必要なデータ項目を設定や組織情報、ユーザー情報なども設定します。

DO:各人の業務リスト(To Do)リストが表示され、これを選択すると業務を実行するための画面(業務指示と記録)が表示され業務を行います。
マイタスクはグループの誰かに実施してほしいリストが表示されます。手の空いている人が「引き受ける」として自分のToDoリストに入れて業務を行います。そうすることで業務負荷が自然に分散するように自動調整されることになります。もちろん、そのためには業務を標準化する必要があります。画面を開くと誰でも作業ができるようにマニュアル化(動く業務マニュアル)することです。

・この画面から自分の業務や自分が引き受ける業務を実施します。
・また人から頼まれる業務なども一覧として現れます。

Check:各人がDoの画面から業務を行うと、誰がどの案件をどこまで進めているかがリアルタイムで見るようになります。
 例えば、一人の人が多くの業務を抱えていることで、ボトルネックになってしまっていることや、残業が増えることなどが予測できるようになります。それを比較的、手の空いている人にマネージャが業務を割り振るというような機能があります。またそれぞれの案件の進捗が見えるために、どこまで業務が進んでいるか、または滞留しているかなどが見えるようになります。今まで人の業務は、 とりかえしがつかない問題が発覚してから業務課題が見えるようになる。または連絡や相談を受けることによってでしか事前に問題を察知することができませんでした。BPMSを使うことで、業務上の問題を察知できるようになります。(常に監視しているのではなく、問題が発生する前に「気づく」ための機能を持たせることができます。)業務を抱えてしまった本人が違う人に業務を途中から引き渡すといういう機能もあります。見えることで、上司、同僚、部下などに業務を割り振り平準化させ残業を削減することや、課題を事前に察知し対策を実行するということができるようになります。

・人が行っている業務が可視化されます。
・可視化されることで、すぐに解決すべき問題が見えてきます。
・そして業務が円滑に、無理なく実施できるように調整することができます。

Action:さまざまはプロセスのさまざまな案件の実施データが蓄積され、新たな課題が発見できるようになります。
 同じプロセスでも人によって、実施時間が異なることがあることなどが見えます。その原因を分析して効率的に業務を行うためのしくみを検討することができるようになります。検討した結果を「Plan」で業務フロー(BPMN)に反映させ、また「Do」に戻ります。

・蓄積されたデータから次なる改善のネタが見えるようになります。
・そしてまたPlanに戻ってBPMN図を検討して改善は永遠に繰り返され、業務フローは維持されることになります。

3. BPMSに関してよくある質問


Q1:BPMSにもBPMN図を描く機能があるので、BPMSだけで描いても良いのでしょうか?
A1:業務知識はシステムから切り離して管理すべきです。BPMN図はドローイングツールで実務担当者が描き、維持をする。その書かれたBPMN図をIT担当者が実装をする。という関係であることが重要です。 (コラム「BPMとIT」参照)
 例えば、IT担当者が現場の人から聞き出してBPMN図を描くという方法を取ると、プロトタイピングが長引き、いつまでもBPMSを使って業務を行うということができないという問題が発生します。BPMSに実装する業務プロセスは今までの業務システムとは異なり、人が行う業務そのものを実装するからです。例えばAさんに聞いてIT担当者がBPMN図を書きBPMSに実装したとします。同じ業務を担当するBさんが業務フローや実装されたBPMSのプロセスを見ると「私はこんなやり方をしていないので変更してほしい」といったことが発生します。プロトタイピングが始まってから、このような問題が発生するとプロトタイピングは終わりません。よって実務担当者間で事前にBPMN図を中心にすえて、改善後の姿を十分に議論しコンセンサスを取ることが大切だということです。そのためにBPMSは必要はありません、描きやすく修正しやすいドローイングツールの方が良いということになります。

Q2:ドローイングツールで描いたBPMN図をBPMSが取り込むことができますか。
A2:取り込むことができるBPMSもあります。ただし、実務担当者が熟考して描いたBPMN図を単に書き写す作業はBPMSで、そのプロセスを動かすための設定に要する工数の数%程度でしかありません。そこにこだわる意味はあまりないと思います。また修正したBPMN図を取り込むとまたゼロからBPMSの設定になります。BPMSでの設定情報もドローイングツールに渡し、ドローイングツールで修正をしたBPMN図を取り込むとBPMSの設定情報が引き継がれる。という姿がBPMの理想ですが実現していません。すなわち最初の1度だけ取り込めることに、それほど意味がないということです。

Q3:BPMNで描いた業務フローをすべてBPMSに実装するのでしょうか。
A3:プロセス図の大きさによりますが、階層の最上位で「折りたたまれたサブプロセス」のみで描かれたBPMN図はBPMSに実装されません。サブプロセスを実装し、最上位のプロセス図は各サブプロセスのつながりを表しています。またブラックボックスプールやメッセージフローなどはBPMSには実装されません。BPMN図はBPMSに実装するために必要な情報を提供する設計図だからです。 (ここは実際にやってみると意味がわかります。)

Q4:BPMSでできることは、他にもっと便利で簡単に実現できるパッケージシステムがあるように思います。BPMSは必要なのでしょうか。
A4:情報システム部門やシステム会社が中心となって1度だけのシステム導入をするという前提であれば、同じような機能をもったパッケージ製品があると思います。BPMSはBPMを実現するために必要なツールです。BPMが何であるかは「BPMとは」を参照してください。ポイントは実務担当者がBPMN図(業務フロー)を維持していることで、内外の環境が変化することへの「俊敏な」対応や業務課題を解決するためのPDCAサイクルが回るかということです。

Q5:BPMN準拠でないBPMSというものがあるようです。これはBPMSなのでしょうか。
A5:前述していますが 「BPMNを実務担当者が維持管理できているからこそのBPMS」です。BPMNに代わる業務フローでもそれが実現できるという主張をされる場合がありますが 、その業務フローは「そのBPMS」が無くなっても使い続けることができる業務フローでしょうか。業務の設計図ともいえるBPMNを実務担当者が維持できていれば、使用していたBPMSが無くなったとしても他のBPMN準拠のBPMSに乗り換えることは大きな問題にはなりません。それがBPMN準拠であるBPMSの重要なポイントです。

4.まとめ

 BPMを実現するためにBPMNとBPMSは車の両輪であり、どちらが欠けてもBPMを実現することはできません。しかしBPMは抽象的な説明では理解しづらい概念です。実際にやってみると、あらゆる事務業務、ホワイトカラー業務の業務改革・改善が実現されることを理解することができます。製造現場での改善もそうですが「まず、やってみる」ことです。「IT」が絡むとすぐに高額な投資が必要であると考えがちですが、BPMSはライセンスフリーのオープンソースシステムや、ある程度の期間は無償で使えるタイプのものがほとんどです。基礎的な知識を有していて、BPMの導入(BPMSだけの導入ではない)経験者の支援を受ければ1プロセスを実施するのに2~3か月あれば実行することが可能です。BPMによる、事務業務、ホワイトカラー業務の改善を是非、経験してみてください。

参考ページ・コラム

・モデルプロセス導入支援サービス
・BPMとワークフロー(承認・決済)システムの違い
・テレワーク、BPOにおけるBPM改善のヒント1
・テレワーク、BPOにおけるBPM改善のヒント2