BPMとワークフロー(承認・決済)システムの違い

 日本では「ワークフロー・システム」または「ワークフロー」というと、承認や決済を得るための稟議書などのペーパーレスを実現する「承認・決済に特化したシステム」を指すようです。一言で表現すると「BPMとは目的が違います」。BPMの目的は業務プロセスの継続的な改革・改善です。「人が行っている業務を標準化しリアルタイムで見えるようにすること」「業務が見えることで具体的な対策がすぐに実施できること」「蓄積された業務データから課題を発見し改善し続けること」と「BPMとは」のページで説明しています。 そのためにBPMN(BPMNとはを参照)は、人の行っている業務の振る舞い(数値化、定量化できない曖昧な業務も含む)を表現することができ、それをBPMS(BPMSとは参照)に実装して稼働させることができます。BPMSと承認・決済ワークフローシステムを機能だけで比較するとほとんど差が無いように見えます。そのためBPMの事例の結果だけを見て「これだったらワークフロー・システムでできる。」とITリテラシーが高い人ほど間違った判断をしてしまいます。BPMはシステム機能ではなく手法です。このコラムでは、その違いを例を挙げて説明します。

目次

1.BPMの対象は、人の行っているすべての業務
2.BPMSと承認決済ワークフロー・システムを機能だけで比較する
3.まとめ

1. BPMの対象は、人の行っているすべての業務

 承認・決済ワークフローシステムとの違いを言葉で説明することは難しいですが、BPMN図で具体的に説明をすると明らかになります。承認決済ワークフロー・システムを使って、以下のBPMN図で表現していることを実現できるでしょうか。BPMSでは実現できます。逆に「こんな機能は必要ない。」と言うIT担当者・技術者はBPMが何かを理解していないと言えるでしょう。それはワークフロー・システムという視点でBPMSを見ているからです。実務担当者が自分たちが実現したい業務プロセスをBPMN図として描き、BPMSに実装して実務を管理することがBPMだからです。

 BPMNのレベル2の記号を使うとその違いがはっきりとします。特に「中間イベント」で説明できます。業務の途中でプロセス外部から何らかのトリガーが引かれると業務が再開されたり変化したりします。ここではすべてを説明することはできませんが、代表的な例として中間イベント、境界中間イベント(中断)で説明をしましょう。〇のイベントは自動処理を意味します。人の上半身のアイコンの付いたユーザータスクはBPMSの画面上で人が行う業務です。封筒のアイコンがあるタスクは受信タスクで自動化を表します(イベントと同じです。)

 

 営業担当がお客様から見積書を依頼されて提出をしました。「発注書を受け取る」を待っている間に見積書の有効期限になったとき、発注書を受け取るタスクが中断され自動で「お客様に再見積の連絡をする」のタスクが開始されます。これらは、承認・決済のためのワークフローではありません。営業担当が大量にさまざまな顧客に提出している見積書の期限日をいちいち覚えていません。見積書の有効期限が過ぎたことで、お客様に連絡を取るための気付きを与えるようにする改善です。承認・決済ワークフローシステムでは実現できないフローだと思います。承認・決済には期限が来たら、別の承認・決済ルートが開始されるといったことが無いからでしょう。それでも「カスタマイズすればできる。」という人がいるかもしれません。これは一例にしかすぎません。BPMNで記述できる人が行う業務の振る舞いをすべてプログラミングで実現していたら、そのシステムはメンテ不可能な「オバケ」システムになりPDCAサイクルは回らなくなるでしょう。

2. BPMSと承認決済ワークフロー・システムを機能だけで比較する

 ある多機能なワークフローシステムのカタログから機能名だけ抜き出しました。

1:フォームの設計機能      →同じ
2:フロー定義機能        →同じ(ただしBPMNではないでしょう)
3:申請書作成機能        →BPMSでも作成可能です。
4:承認・決済機能        →BPMSでも可能です。ただし一括承認や引き戻しなどといった日本独自の慣習に対応したBPMSはありません。
5:他システムとの連携機能    →同じ
6:運用管理機能         →BPMSでは業務の割り振り機能や手の空いている人が業務の引き受けをしたり手放したりすることができます。

左側の機能面だけを見ると、ほとんど差が無いように見えます。そのために勘違いをする人がいます。

3.まとめ

 BPMの特長は、BPMNにあると言っていいでしょう。BPMNが無ければ、似たようなシステムは何でもBPMSだと言ってしまうことができます。日本で言うワークフロー・システムもBPMSだと言われても否定できなくなるでしょう。
 BPMNはBPMSのために作られた業務モデリング表記法です。そのためにBPMN仕様として標準化できたと言えます。標準化できたことで、BPMNの正しい使い方、描き方が実践的に考えることができました。標準規定があるからこそできることです。
 ワークフロー・システムのフローはシステムによってバラバラです。承認・決済に特化しているのでBPMNのように細かなルールが無く簡単です。それは人が業務を行うための振る舞いをすべて表記するために作られていないからです。BPMN図は業務フローとして単体でも機能し、かつ共通言語的に議論の中心におくことができます。そして議論し尽くした業務フローが、そのままBPMSに実装されイメージした通りに見える管理が実現できます。