BPMのゴール感とは

 「BPMとは何かわからない」「概念は理解できるが具体的にどのようなメリットがあるのか」ということに対して、本コラムで書いてきました。今回は「BPMのゴール感」という視点で、BPRにおけるゴールとの違いを明らかにしていきたいと思います。世の中にはBPMSを使ってBPRを実施している事例や、BPMN図を描くことそのもので何か改善ができる、というようなBPMに対する誤解の発信があるようです。
 BPRとの違いは「開発されたシステム」としての完成度の違いとも言えるでしょう。BPMの考え方でBPMSに実装したプロセスは、システム開発者から見ると「枠」だと表現されたことがあります。彼等から見るといろいろなスクリプトやプログラムが実装されて初めてシステムだと考えているからでしょう。しかしながら、システム開発者の言う「枠」で十分な業務の標準化、業務改善を実務者自身が実現させることができます。
 BPMのゴールはシステム開発プロジェクトが終了してカットオーバーされるというゴールでは無く、プロセス単位で改善・改革のPDCAサイクルが回る「しくみ」ができることがゴールであることをご理解いただければと思います。

※以前のコラムでも書きましたが、BPMSをVisio、iGrafx、 SignavioなどのBPMN(業務フロー)図を描く記述(ドローイング)ツールだと誤解されている方もいらっしゃるようです。その誤解のまま読むと何が書いてあるのかわからないと思いますので気をつけてください。まず「BPMSとは」をお読みください。

目次
1.BPMN図を描く
2.BPMにおける本来の自動化とは
2.BPMSは実務者の道具でなくてはならない
3.まとめ

1. BPMN図を描く

 ある会合でBPMやBPMNの話をしたら「BPMN図はいろいろ使っているよ」と言われました。「何に使われているのですか」「なぜ使われているのですか」と聞くと「経産省のDXの○○の中でBPMNの使用が推奨されている」「国の入札案件でBPMN図を使って資料を作成すると加点される」という答えが返ってきました。すなわち、BPMN図が「何のためにあるのか」を理解しないまま使っているということでしょうか。「BPMNとBPMSは車の両輪であり・・・」という、いつもの話をしようとしたら「どこかの会社のBPMSの売り込みですか?」と顔に書いてあり、話もロクに聞かずに流されてしまいました。世の中のBPMNに対する認識は、その程度であることがわかったことは収穫でした。すなわち「従来型のシステム開発」という視点であり業務改善、改革という視点は存在していないということです。
 「ガートナーが言っている。」「国が推奨している。」といった類の話を良く聞きますが、その根拠を考えないのは日本人の悪い癖なのでしょうか。過去に日本人は外圧をかけないと変わらない。と言われたことを思い出します。一方、トヨタ生産方式のように世界に影響を与えたモノづくりの手法を作り出すという一面もある。近年は自ら変わっていくことよりも、前者のように「誰かが何かを言っている」ということに振り回されている残念な部分が目立っているように思います。BPMもトヨタ生産方式と同様、合理的で普遍的な手法であるということを理解していただきたいと思います。

2.BPMにおける本来の自動化とは

 BPMにおける自動化とは、BPM入門 基礎知識+事例セミナーでは

・実務担当者によって標準化された業務の「指示」「受け渡し」「業務の割り振りの調整」が自動化され、実行した業務が記録される。
・人が行う業務の実施忘れや納期遅れなどが発生しないような「気づき」を与えること。
と説明をしています。

 これらは、BPMSの標準的な機能で実現できるためシステム開発者にとってはコードを書く部分がなく、つまらないことだと思われるようです。標準化の中には脱Excel(ペーパーレスは付随的な効果)があり、自動化の中には脱メーラーが入ります。BPMSの画面だけを見て業務を行えば、間違いなく業務が行うことができるという「動く業務マニュアル」を作るためには、都度、別のツールを使うことを少なくする必要があるからです。従来のシステム開発では「それはシステムでは無く、人が運用で行うこと」とされてシステム化対象とされてこなかったことです。その部分をBPMでは実務者がBPMSに実装して自らの道具にすることです。

3.BPMSは実務者の道具でなくてはならない

 「脱Excel」「脱メーラー」と言った限りは、それに代わるBPMSは実務者の道具でなくてはならないです。実務者の道具となり得ないBPMSは淘汰されていくことになるでしょう。以下の図のようにSTEP5プロトタイピングまでは実務者が実施できる容易性が必要だということです。STEP5はプロトタイプと表現をしていますが、業務の標準化や業務の指示・受渡し、割り振りの調整の自動化などの改善は実現ができている状態です。
 STEP6は今後、AIによって多くの工数が低減されていく部分になりますが、STEP5までは実務者の創意が必要な部分になります。

4.まとめ 

 「ITシステム」というイメージはIT技術者にしか扱えないもの、という従来の考えが、まだまだ払拭されていないと感じます。BPMコンソーシアムのセミナーでもBPMNレベル2セミナーの参加者はレベル1セミナーの1/3程度です。そこには「まだまだ壁がある」と思います。レベル2セミナーに参加者の多くは「自分達でもBPMSを扱えるということがわかった。もっと触って、使ってみたい。」と言われます。食わず嫌いはやめましょう。騙されたと思って食べてみましょう。挑戦してみることこそが改善・改革の第一歩です。
 BPMの導入を支援している我々の仕事は「ITコンサルタントと経営コンサルタントの間の仕事をしています。」というように言っていますが、それも正確な表現ではないと思っています。ITコンサルタントのようにお客様の業務に適したITシステムの提案をしているわけでも無く、経営コンサルタントのように業務改善提案をしている訳でもありません。我々がBPMコンサルタントという言葉を使わないのは「提案」ではなく「実践支援」をしているからです。支援を受けられたお客様からは「とても手間のかかる支援をされている。」と言われました。「これからもあのような支援をしていくのか」とも言われましたが、そうするしかBPMを成功に導くことができないからです。ただ改善のPDCAサイクルが回る「しくみ」が出来てしまえば、我々の支援は必要ありません。
 BPMは従来の考え方、枠に入らない業務改善・改革の手法です。従来の枠に無理やり入れようとする人が誤解を発信しているように思います。そして実践することでしか、本来の意味を感じることができないです。その一歩を踏み出せるかどうかが、とても大切です。

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