DX(推進)部門の姿とBPMについて

 
 DX(デジタル・トランスフォーメーション)に関連する部署の方々がBPMに興味を持たれ、BPMコンソーシアムのセミナーに参加されています。DXを推進する部門に関して、受講者に少し詳しくお話しを聞くと、単に情報システム部門(IT部門)が名称を変更しただけではなく業務改革・改善を行なうことを目的として実務部門とIT部門出身者の両方から構成されている組織のようです。
 DXはBPMとは異なり「体系」や「しくみ」を持った手法ではなく「概念」のため、お話しをされる方によって表現が違うように思います。いろいろな話しを聞いていると、私は従来の基幹システムが担って来なかった「人の行っている業務をどのように管理(標準化、見える化)、自動化するか」ということがテーマである、ということを言われていると捉えています。よってBPMというマネジメント手法とマッチすると考えられている人が多いのかと思います。
 ただし、どのような改革・改善でも「一足飛びの理想論」は危険だと感じます。昔から言われているように業務改善・改革に「一発逆転サヨナラホームラン」はありません。トヨタ生産方式がスーパーマーケットの品出しをヒントとした思い付きから、一朝一夕で実現できたものではないことから明白です。それは何年、何十年という長い年月の中で環境の変化に対応できる「しくみ」を作り、実現するために「考えること」を訓練し続けたことの結果だと思います。
以上のことからBPMを推進するために、どのような体制やメンタルが必要なのかを論じてみたいと思います。

目次
1.理想論は沼にハマる
2.業務改善に抵抗があるのは当たり前
3.推進役の体制はどうすべきか
4.まとめ

1. 理想論は沼にハマる

 「基幹システム」と呼ばれるシステムで出来ることは、かなり昔にやりつくしており、実はアーキテクチャ(基盤仕様)が変更されているだけではないかと思うことがあります。 例えばWindowsやインターネットが無かった時代でもシステムによる業務改善はスクラッチ開発によって実現できていたと思います。その時代はハードウェアが高価でメモリやディスク容量が小さく、通信も遅いなど、大量のデータ処理やデータ送受信が難しい時代だったと思います。その制約の中でも、創意を凝らして業務改善を実現できていました。逆に2000年代初頭から「ERP(統合業務基幹ソフトウェア)を導入したら、かゆいところに手が届くシステムでは無くなった」と多くの人が言っていたと思います。
 すなわち、この20~30年は業務の中身では無く「IT環境の変化からできること」ということが基準で、実際の業務改善はIT環境の改善によって実現できたということに過ぎないのではないかと思います。(eMail、WEBシステム、クラウドなど)

 そして、多くの人がそれに慣れてしまった。「失敗は成功の母」では無く、何か新しい技術(ツール)ができる(を導入する)と何かいいことができるのでは、失敗しても新しい技術が何とかしてくれるのではないか。という思考になっているのではないかと感じます。
 よって業務改善・改革を実現することが目的ではなく、良いツールを入れることが目的となっており、「理想のツールがないことに嘆く」「理想のツールを探すことが仕事」ということになってないでしょうか。特にIT部門が主導の業務改善は、その域を脱することができないのではないかと感じます。ツールよりも先に「手法」や「目的」があることを忘れ、ツールをいくら選択しても抜け出せない沼で、もがくことになるのではと思います。

2.業務改善に抵抗があるのは当たり前

 今年の6月15日のBPM情報共有会(有料動画配信中)での事例でSBフレームワークス様は「月末・月初の売上処理が苦痛」という共通の思いがあるため、実務者の協力が得られやすい非常に稀な事例でした。しかし、その中でも「今まで通りが楽」と考えられる方もいらっしゃいました。
 すなわち「変える」には、通常業務以外に付加される業務が一時的にも増えるからです。この30年間の改善志向のある人の声として「属人化が問題である、ムダな業務が多いということはわかっているが、誰がそれを解決するのか。実務をやっている人にはまったく余裕がないからできない。」ということを聞くことが多かったでした。自殺者や精神的な疾患にかかる人が増えているのも事実だと思います。しかしその原因は、仕事が忙しいからでは無く、実は「本来はやらなくてもいいムダな仕事」をしていることに起因しているのではないかと想像されます。ミス、やり直し、クレーム処理、イレギュラーな仕事が増えていることが実は根本問題であり、残業時間を減らす、有給休暇を取得させる、などというのは、問題が発覚したときに批判をかわすためのポーズでしかないのではないでしょうか。実際は「残業するな」と言われても、なんともならない仕事が沢山あるのではないかと思います。
 ここに欠落しているのは「やるためにはどうするか」という思考です。実務を知っている人が業務を改善ができる環境を作るにはどうするのか。という思考が必要です。「気合と根性で何とかする」ということが、できない世の中になっているからこそです。同じくBPM情報共有会で登壇いただいた、オリックスビジネスセンター沖縄様は「業務改善が通常業務」になる「しくみ」が構築されており参考になると思います。

3.推進役の体制はどうするべきか

  冒頭にも述べたように、IT部門と各実務部門が統合された推進組織が必要であると思います(下図のイメージです)。
「作ったシステムが使われないのは、上層部が使えと言わないからだ。」ということを言われる情報システム担当者の話をよく聞きます。上層部には実務者が使いたくない理由として「実務を知らないIT部門が意見を聞かずに勝手に作った」といった話も伝わっているため、実務を表面的にしか理解していない上層部も現場の混乱を避けたいという判断から強要することができないのだと思います。誰もが言い訳ができない「しくみと体制」を作ることが大切であると考えます。それは、それぞれの組織によって異なり、絶対普遍的な正解はないと思います。「やるためにはどうするかを考えるべきです」と言うしかありません。少なくとも私はそうしてきました。

4.まとめ 

 業務改善・改革を進めるために「正攻法」では前に進まないです。BPMコンソーシアムが正会員である「ビジネスシステム・イニシアティブ協会」では、情報システム部門が改善・改革を進める中で正攻法ではない「手練手管」を使った生々しい事例が毎月開催されている例会で聞くことができます。「上層部を説得するためには、上層部が好むキーワードを使う」「部下に対して時には鬼のような冷徹な振舞いをする」「抵抗勢力であるライバルに勝つためには裏工作をする」などです。悪事を働くのではなく「自分の会社・組織をより良くする」という強い意志がある方々は「やるためにはどうするか」を必死に考え実行されたこそ実現できているのだと、毎回のお話しを聞いて感じます。
 私は大学卒業後、入社1~2年目で「改善を簡単に諦めてはならない」ということを実践によって学びました。製造現場の改善を説得するために作業をストップウォッチで測って計算し理路整然とした改善案を説明しても現場は動かない。そこには自分達が今までやってきたことを否定されている。という意識が生まれるからだと思います。理屈ではなく感情なのだなと。逆の立場になって考えると「大学を出て1~2年目の小僧に、2~30年もやってきた仕事に対して理屈で攻められて『ハイそうですか』などと言えるか!」という感じだと思います。しかし、ここで諦めてはダメで何度も説得のために話をして、人として信用されることが最も大切だということを学びました。できない理由を上層部や上司、組織環境のせいにしているようでは業務改善・改革は実現しません。 

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